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Re: シェーンベルク

シェーンベルクの作品を、新しい視点と演奏形態から捉えなおすシリーズ。2026年はフェルドマン生誕100年にも焦点を当てます。

2025 —

Re: シェーンベルク
01 / CONCEPT

企画について

「Re: シェーンベルク」シリーズが掲げるコンセプトは、「応答(Response)」、「再創造・再構成(Recreate/Reconstruction)」、「再考(Reevaluate)」の三つです。
シェーンベルクの音楽を単に再現・再演するのではなく、いま、どのような文脈でその音楽を聴くことができるのか。
これがシリーズ全体の核(Core)となる問いです。

01 / 挨拶にかえて(CoRe KTOTO Re: シェーンベルク Vol. 1(新訳)《浄められた夜》プログラムより)

挨拶にかえて(CoRe KTOTO Re: シェーンベルク Vol. 1(新訳)《浄められた夜》プログラムより)

「Re: シェーンベルク」の発端は、2024年の夏に遡る。
 仕事で訪れた先で、シェーンベルクの作品を耳にした。そこで演奏されていたのは、シェーンベルクのフルート・ソナタであった。もっともシェーンベルクの作品表にはフルート・ソナタと名づけられた曲は存在しない。実際には、彼の木管五重奏曲を、弟子であり、娘婿でもあるフェリックス・グライスレがフルート(またはヴァイオリンかクラリネット)とピアノのために編曲した作品が、当作であった。そのソナタを聴いているとき、突然、私の脳裡でフルートの旋律がすべてヴィブラフォンの音色に変換されて聴こえ始めた。幻聴といえば幻聴、妄想といえば妄想である。だが、一度そう聴こえてしまうと、もはやフルートの音はフルートではなく、ヴィブラフォンそのものにしか聴こえなくなってしまっていた。
 シェーンベルクの作品に、ヴィブラフォンが使われた例は一つもない。だが、私には、シェーンベルクの音楽とヴィブラフォンは絶対に合うはずだ、という確信に近い感覚があった。
 シェーンベルクの表現主義的な音楽は、一言でいうならば、夜の音楽である。夜は、太陽の燦々と輝く時間とは異なるもう一つの世界だ。月によって揺れ動く、あるいは漆黒の闇のなかの心象風景、そして人が意識している——言いかえれば“自覚”している——世界の対岸に広がる世界。まさにそれこそが、表現主義の文学や絵画のテーマではなかったか。
 ヴィブラフォンは、そうした夜の世界を表現するのにふさわしい楽器だと私には思われた。
 この楽器が都会の夜を映し出すジャズでしばしば使われていること(MJQのミルト・ジャクソンはヴィブラフォンの演奏史において重要な存在だ)、シェーンベルクの高弟アルバン・ベルクのオペラ《ルル》(これも”夜の世界”と深く結びついた作品)でヴィブラフォンが用いられていること、シェーンベルクの表現主義に強く魅せられ、今回、前半のプログラムでも取り上げる八村義夫が好んだ楽器であったことなどが、私の“妄想”をよりいっそう確固たるものにしていった。
 演奏家ではない私だけでは、当然この企画を実現することはできない。そのためには協力してくれる仲間が必要であった。企画の実現を思い立ったとき、私の脳裡には3人の人物が即座に浮かんだ。
 1人目は谷口かんなさん。私の“妄想”の中で鳴り響いていたのは、谷口さんのヴィブラフォンであった。谷口さんの奏でるヴィブラフォンの音色を想定して、私はこの企画を始めることにした。
 2人目は河合珠江さん。2015年、静岡文化芸術大学を舞台におよそ4時間に及ぶ、サティを中心としたコンサートでピアニストとして演奏してもらって以来、何度も私の無理難題を引き受けてくれた河合さんなら、この企画に喜んで乗ってくれるはずだ、と(まことに勝手ながら)思った。
 3人目は池内奏音さん。シェーンベルクにはヴィブラフォンを使った曲などありはしないのだから、この企画には、編曲者が不可欠だった。池内さんが学部生の頃、私の講義をとってくれたことがある。そのときのコメント・カードに書かれていた“シェーンベルク愛”の一片が、ずっと私の脳裡に焼きついていた。編曲と新作の委嘱を託すならば、池内さんをおいて他にはいないと思った。

こうして始まったのが、「Re: シェーンベルク」である。

「Re: シェーンベルク」という企画タイトルを思いついたきっかけそのものは、メールの返信を書いているときだったが、この“Re”という語には多くの意味と想いを込めている。
 一つ目は、シェーンベルクへの私たちからの「応答(Response)」である。
 二つ目は、シェーンベルクの作品を編曲によって「再構成(Reimage/Reconstruction)」、「再創造(Recreate)」とするという意図である。
 三つ目は、そうした営為を通して、シェーンベルクという作曲家、そしてその作品に新しい価値を見い出すという意味での、「再考(Reevaluate」である。
 全3回を予定している企画の初回のテーマには、シェーンベルクの代表作の一つ《浄められた夜》を選んだ。題名からも想像できるように、夜を舞台とする作品である。
 あえて「表現主義時代(“無調”期)」の作品をプログラミングせず、その前の後期ロマン派の残響を多分に含んだ《浄められた夜》(1899)と最後の器楽曲となった《幻想曲》(1949)を選曲したのは、シェーンベルクの表現主義的な音楽性——言い換えれば、強弱やテンポの緩急など、様々な音楽的要素の鋭いコントラストに支えられた表現——は、どの時代であっても変わらないと強く感じるからである。

大橋奈菜さんのデザインによる、本演奏会に相応しい、何かが誕生する瞬間の爆発力を感じさせてくれる、素晴らしいフライヤーにも記したように、「ヴィブラフォンとピアノによって織りなす新たなる音響世界」をご堪能いただければ幸いである。
竹内直(CoRe芸術監督/音楽学)

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